Monday, October 30, 2006

TERMINAL VELOCITY OF THE LIGHT : amazing sunrise

菜の花が香る暖かな陽射しが僕の眼球の奥を照らす。
青い空を見上げては少しため息をつく。
そんな癖を気づきもせずに他人の前でも自然にしていた。

ある日にそんな自分の癖に腹を立てられ殴り倒された。
何度となく投げ出されて地面に這いつくばりながら、殴られた局所の痛みに静かに耐えていた。
この痛みは身体的なものだ。
自分の心は何一つ傷つきやしない。
腹に強い蹴りを食らうと僕は視界が閉じられていくのを感じた。


深い、深い闇の底にうっすらと見える光。
僕はそこへ向かって這いずる様にして向かう。

あの声だった。

いつしか聴いた公園での歌声。
自分の心を奪うかのようなメロディー。
再び瞳を閉じたなら、このまま溶け堕ちてしまいたくなる。

「大丈夫?」

ふと、その言葉に眼を覚ますとそこに僕を覗き込む一人の少女がいた。

「随分殴られたみたい。痛そう...」

起き上がろうとしても体の節々が悲鳴を上げる。


「動かないで。」
少女はそっと手を添えると自分の膝の上に僕の頭を乗せ、出血した唇をポケットから取り出したハンカチで拭き取る。

「君は誰?」

少女は無言のまま切れた唇にハンカチを押しあてたまま静かに僕を見つめていた。
そのまま自分は包まれるような感触に眩暈を覚えて、また気を失ってしまう。


次に目覚めると自分の部屋の中だった。
「夢...か?」
しかし夢でなく切れた唇からまた血が滲み出てくるのを感じた。

またひとつため息をつきながら、寝転ぶと窓から見える月がわずかに雲に隠れて明かりを打ち消されていく。
その黒い月にかかる雲を見つめながら気がつくと、そのまま夜の闇に眠ってしまった。

「あの声をまた聴いてみたい。」

わずかな希望を沿えながら眠りに堕ちた。



朝日に照らされて目覚めると自然に公園に足が向いた。
そこでまたあの少女がベンチに座っていた。
自分が視線を向けると彼女も気づいたようにこちらを見返してきた。

歩き近づいていくと、彼女はこらえ切れないように笑い出した。

「...?」
疑問に思う自分は何をそんなに笑うのかと問うところで彼女は一言発した。

「ホント、随分殴られたのね。」

腫れ上がって浮腫んだ顔を笑われていることに自分はやっと気がついた。

「何で殴られたのかも憶えてないんだ。」

ベンチに腰をかけて彼女に話しかけた。

「前も歌ってたね、ここで。」

驚いたような表情で彼女は僕の顔を見返した。

「あれは歌じゃないの。ただ本を読みながら、時々感じるその時の感情を思い浮かべてるの。
そうすると自然になんか声に、歌声?じゃないけどそうやっちゃうんだ。」

よく手元を眼を向けると本と共にノートに殴り書きしたような文字が見える。

「それは?」

「あぁ、これね。これは詩。自分の感情を詩に書き留めているの。
ただ、とりとめもなくね。」

「見せてもらえる?」

少し恥ずかしげな表情だったが、僕はそこに書かれている字を見てみたかった。

不思議な文字が書かれていた。
自分にはまるで見たことも無い文字の数々。

「これは何て読むのかな?」

「これは私だけの言葉。造語よ。誰にも私のことはわからないの。
これは私だけの世界。自分の存在の理由を探すためにこうした活動をしているのよ。
歌ってるように聴こえた?この言葉をただ呪文のように口づさんでいただけなの。

ごめんね、もう行かなきゃ。」

立ち上がってすぐに駆け出していく彼女の後姿に、名前さえも聞いていないことに気づき、
「名前は?」

数十メートル離れたところで立ち止まり、

「瑠璃。あなたは?」

「恭次。またね。」


そのままベンチにまた座り込むとまた深くため息をついた。
「自分の存在の理由」
そんなもの考えてもみたことが無かった。
自分はただ、生かされているかのような日常に何となく生きているだけなのだと感じた。
しかし、何故か彼女に共感を憶えた。
自分にも感じられる「生」への渇望。
そしてその相反する「死」への憧れ。
醜くも喘ぐ自分のその姿に、呆れながらも自分も答えを探していた。


また明日ここに来よう。

密やかな期待だけが僕の心をわずかに躍らせていた。

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